自閉症と異常反応⑲ 変化を嫌がる心
こんにちは、宿木御法です。
「自閉症と異常反応」カテゴリー記事では自閉症の特性と大きな異常反応を持つ人の特性について比較しながら書いています。今回はその共通点と思われる「変化を嫌がる心」について書きます。
もくじ
変化を嫌がる心
自閉症の方には変化を嫌がる特性があると言われています。たとえば、
テレビ番組改編の時期にパニックになる
とか、
遠回りになっても最初に通ったルートを通りたがる
などです。
「番組改編でパニック」については、自閉症のお子さんをもつmoroさんのブログをリンクさせていただきます。
このようなことは自閉症の人だけではなく異常反応が大きい人にも見られる特性のようです。
「遠回りでも同じルート」については当ブログの過去記事で触れています。
minori-yadorigi.hatenablog.com
当ブログでは異常反応と自閉症にいくらか重なりがあると仮定して記事を書いています。以下はそのような仮定にもとづいた考察です。
現状維持バイアス
上記の二つの例は「自分が通るルートのこと」「番組改編のこと」と状況が違いますが、二つとも「変化に対応できない」という例です。自閉症の方や異常反応が大きい方は、変化を受け入れて適応していくことが苦手のようです。
しかしこのようなことは何も少数の人だけに限ったことではなく、人間全般に言えることではないでしょうか?
心理学では「変化を嫌がる心」のことを何と呼ぶか考えてみましたら、現状維持バイアスという言葉を思い出しました。この言葉は行動経済学の言葉でもあるようです。行動経済学について書かれた本から少し引用してみます。
人は現状の行動様式や考え方を変えることに心理的なストレスを感じる(損失回避)。それよりも慣れ親しんだ抵抗感の少ない行動様式を優先してしまいます。これが常に合理的であるとは限りません。
真壁昭夫『知識ゼロでも今すぐ使える!行動経済学見るだけノート』(2018年 宝島社)より引用
上記のことについてもっと分かりやすく書かれている井上純一さんの漫画を引用させていただきます。
井上純一『キミのお金はどこに消えるのか 令和サバイバル編』(2019年 角川書店)より引用
上記の例は、井上さんの漫画のなかで「現状維持バイアス」の説明のために使われているたとえです。きこりさんが言っているように「この斧で木を切るには時間がかかるから、新しい斧を買う暇はない」という不合理な選択をしてしまうのは「現状維持バイアス」という心理が私たちにあるためだというのです。
正常性バイアス
現状維持バイアスに似た言葉で、正常性バイアスという言葉があります。これは災害心理学の言葉です。
私たちの心は、予期せぬ異常や危険に対して、つねに移りゆく外界のささいな変化にいちいち反応していたら、神経が疲れ果ててしまう。(中略)そのようなわけで心は、”遊び”をもつことで、エネルギーのロスと過度な緊張におちいる危険を防いでいる。ある範囲までの異常は異常だと感じずに、正常の範囲内のものとして処理するようになっているのである。このような心のメカニズムを、”正常性バイアス”という。
広瀬弘忠『人はなぜ逃げおくれるのか―災害の心理学より』(2004年 集英社)より引用
「正常性バイアス」は身に迫る危険を危険としてとらえることを妨げ、それを回避するタイミングを奪ってしまいます。上記の本ではその例として、2003年に韓国で起きた地下鉄火災のことが書かれています。
災害などで多くの人が逃げ遅れたということがあった時、「正常性バイアスがはたらいていたのではないか」と分析されることがあると思います。「逃げなくて大丈夫だろう」「このままで大丈夫」などと根拠のない楽観的な思考や判断をしてしまうということが問題にされたりしますが、そもそもそれは私たち人間に誰でも上記のような「正常性バイアス」が備わっているからなのですね。
一義流気功の視点から考えてみると
「現状維持バイアス」や「正常性バイアス」のような心理があるのはなぜでしょうか?
真壁昭夫さんの『行動経済学見るだけノート』にはこのように書かれています。
人は現状の行動様式や考え方を変えることに心理的なストレスを感じる
広瀬弘忠さんの『人はなぜ逃げ遅れるのか』にはこのように書かれています。
心は、”遊び”をもつことで、エネルギーのロスと過度な緊張におちいる危険を防いでいる
(下線はブログ管理者がつけました)
二つの記述に共通する点は、変化に対応する時に大きなエネルギ―が必要になるというところではないかと思います。大きなエネルギーを使うため、変化が必要なときはストレスになるし、多少の異常には目をつむる、ということが言えると思います。
このことを一義流気功の視点から説明してみます。
一度に生み出せる「気(精神エネルギー)」の量は有限です。私たちは有限な「気(精神エネルギー)」を、認知や運動や体の維持などに振り分けています。「変化に対応する」などといったイレギュラーなことが出てきた時に、有限な「気(精神エネルギー)」をそこへ分配できるかどうかということをまず考えることになるでしょう。考えた結果「変化対応にエネルギーを分配することができない」と判断したとき、現状維持バイアスや正常性バイアスがはたらくのではないでしょうか。
異常反応と現状維持・正常性バイアス
変化に対応するために有限な「気(精神エネルギー)」を割くことは簡単なことではありません。変化に対応するには多くの気(精神エネルギー)が必要だからです。
大きな異常反応を抱えている人であれば、余計に難しくなるでしょう。
異常反応は「不合理な恐怖心」です。まるで「心の毒の生産工場」のように次々に心の毒を生み出し、正常に使える気の量を減らしてしまいます。しかし異常反応に「気」を取られていても、体の運営など生存に関わる領域を犠牲にするわけにはいきません。
異常反応の割合が高くなればなるほど、正常に使える気が少なくなります。加えて人間には変化に対応するためにはエネルギー(気)を使いにくいという心理があります。
だから異常反応の割合が高い人ほど変化を好まない傾向があると言えるのではないかと思います。